9ヶ月前
【戦争と詩人】5 継承
◆「本質を見る目」脈々と◆
「三重詩人(の同人)は警察が調査済みだ。覚悟して詩を書かないかん」。同誌編集委員の伊藤真司(71)は、錦米次郎がよくこう言っていたのを覚えている。
戦場で出会った社会運動家の野口平民(ひらたみ)、元松阪市長で詩人の梅川文男。戦時下、錦と交流があった2人は、治安維持法違反で検挙されたり投獄されたりした過去を持つ。伊藤は言う。
「そうした交流が理由で昔の特高(思想を取り締まる特別高等警察)ににらまれていたのかもしれません。復員してからも警察の人が来た、と言ってました」
三重詩人の複数の同人宅や勤務先にも、警察の公安担当者が話を聞きに来たことがあるという。一人が明かす。「やましいことはなくても、あまり気分のいいものではありません」
「8・15」は、戦前・戦中と戦後を完全に断ち切ったわけではない。戦後も社会は変わっていない――。錦はそうとらえたのではないか。
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広島、長崎に原爆を投下した米国は戦争を続けている。核兵器も保有し続け、イラクなどでは肺がんや白血病といった健康被害の危険が高い劣化ウラン弾を使っている。
4月発行の「三重詩人」で、伊藤は、米国の戦争を支える「貧困徴兵制」を題材にした「誰か!」を発表した。オバマ米大統領が星条旗にくるまれた棺(ひつぎ)に最敬礼している場面を、今年初め、深夜の報道番組で見たことが動機になった。
「アメリカでは貧しい者が志願して兵隊になる/大学へ行く学費を得るために」「就職先がどこにもない者が征(い)く」「いちばん見えない後ろで操るのは 誰か!」
戦争の本質は真っ先に貧しい者が犠牲になることにある――。そう考える伊藤は、「意識したわけではないが、ものの考え方は、錦の影響を自然と受けとるかもわからんね」と認める。
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錦の死後8年半が過ぎた2008年秋、詩人の黛(まゆずみ)元男(81)は、錦の長男聖紀(71)から段ボール箱に詰められた資料を預けられた。従軍手帳や大学ノート37冊に記した戦後約30年間の日記などが入っていた。
黛は、従軍手帳にあった創作の下書きを参考に「捨てられた軍馬」「最後のたばこ」という作品に仕上げた。四日市公害の現地踏査、成田空港建設反対集会取材などの記録……。1冊160ページにびっしり書き込まれている日記に少しずつ目を通しては、それらの記述を基にした随筆を「三重詩人」に発表している。
錦の死後も発行が続く「三重詩人」のように、党派に関係なく「詩運動」に取り組む機関誌が60年間も続くのはきわめて珍しいようだ。今月出た218集は福島第一原発事故と東日本大震災を特集した。
錦に「物事の本質を見る目を鍛えられた」という三重詩話会代表、加藤千香子(78)が、発生直後に同人たちに呼びかけて準備した。
黛は、この特集に「錦米次郎の戦後日記(二) 芦浜原発候補地の現地踏査」を書いた。錦の日記を紹介し、こう締めくくった。
「福島第一原発の大事故が生じて、原発新設を口にも出せない状態となったが、1980年代に芦浜原発を拒否した成果を決して忘れてはならない」(敬称略)
=おわり
(この連載は中村尚徳が担当しました)
-2011年08月19日-asahi.com
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